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勝谷誠彦一九六〇年生まれ。
本年四十一歳。
テレビ朝日の「トゥナイト2」で顔を知った。
勝谷も高橋とおなじように、低い腰つきから入っている。
いわく。
バカとは「人間にだけ与えられた志を追うという能力を捨て、馬や鹿のように、本能のまま目先の欲望のためだけに生きている輩」である。
ここまでは正しい(馬や鹿まちがい)。
「となれば、バカとは、まずは何をおいても私のことであろう」。
これがよくない。
ただし、勝谷は「私かバカであるという前提で言うのだが」、バカには「ただのバカ」と「迷惑なバカ」がいるという。
「私はまだ『ただのバカ』」である。
「ただのバカ」は「自分がバカだということを知っているので」まだ救いがあるが、問題は「迷惑なバカ」だといっている(ここでちゃっかり自分の「バカ」を救済している)。
「ただのバカ」と「迷惑なバカ」、つまり自覚のあるバカと無自覚なバカ、罪のないバカと罪のあるバカという峻別はまあそのとおりだが、こういうことをいいはじめると、果てしのないバカ論争の泥沼に入っていくことになる。
いずれにしても、勝谷によると、この「迷惑なバカ」たちは-堂々とバカ面を曝して徘徊し、時には国の中枢に居すわったりする。
何故ならば、彼らは自分のことをバカと思っていないからなのである。
バカと思っていないバカ。
これこそが、いまの日本をバカ国家にし、亡国にすら追いやりつつある元凶なのだ。
ということである。
では「なぜ、かくもバカが横行するようになった」のか。
勝谷は「戦後のアメリカ軍の洗脳によって、バカをバカと指摘する美しき日本の風習が否定されたからである」といっている。
このあたりはなかなかおもしろい。
「バカは伝染する。
バカとつきあっているうちに、バカの存在を合理化すべく、マトモだったまわりの頭まで侵されてくるのである」勝谷は、本書『まれに見るバカ』でとりあげた「バカ」本のなかでは唯一「バカ」の原因分析にまで踏み込んでいる。
「何故、かくも加速度的にバカが増えているのか。
コンビニでもファストフードでも日本人同士の意思疎通すら困難になりつつあるのか。
それは若者の多数が確実にバカだからであり、バカになったのは日本の産業構造や生活のスタイルが深く関与していると思うのである」さらにいう。
「私は日本国のバカ増加率が確実に上がりはじめたのは、ウォークマンの登場からだと思っている」。
これを勝谷は「バカ製造装置」と呼び、「携帯電話、なかんずくIモードによるメールの普及は、そのウォークマンに匹敵するほど再びバカを飛躍的に生産するであろう」と看破している。
有益な本である。
だが惜しむらくは、本書後半部分にギッシリと収録されている、勝谷のホームページからの転載記事は読むのに骨が折れる。
というより、いささかウンザリする。
ちなみに、「バカの支配から、良民常民が立ち上がった革命こそ、長野県知事選挙であった」というのは褒めすぎ。
田中康夫のいう「しなやかさ」は、「むしろ、強靫だ」というのも、甘えすぎ。
立花隆『東大生はバカになったか』センセーショナルなタイトルではあるが、サブタイトルには「知的亡国論十現代教養論」とあるように、基本的には東京大学論、大学教育論、教育論である。
立花が「バカ」論なんか書くはずがない。
けれどもまんざら「バカ」と無縁なわけでもない。
(……)歴史をたどれば、昔から東大生はバカだった(あるいはバカに育てあげられた)のだ(略)それはもちろん基本的な知的能力を欠くという意味のバカではなく、コンドルセが教育の目的として述べている(略)「教育の目的は現制度の賛美者をつくることではなく、制度を批判し改善する能力を養うことである」という言葉にてらしてバカ(そういう達成目標に到達できなかった)といっているわけだが、実は、最近の調査によると、東大生の中には、本当の単純バカが相当程度出てきているらしいということを知って、私はかなりショックを受けた。
「単純バカ」とはこういうことだ。
現今の束大生のなかには、驚いたことに、地球一周の長さ(四万㎞)を六千㎞と答えるものがいたり、東京ト札幌間の直線距離(八二m)を三〇㎞、一円貨の直径(二m)を〇・一匹とか五皿と答えるものがいるというのである。
漢字を書かせればこうである。
「現代階」「単順」「工害」「決果」「必敵」「自由化路戦」「インフレ懸命」「弱肉強力の世界」。
東大生かバカになっているのなら、日本人全体がバカになっているのであり、かくも日本人がバカになっているのなら、当然東大生もバカになっているのである。
だから「東大生はバカになったか」という問いかけは、答えがどっちであろうと、東大生の「バカ」だけの問題ではありえない。
人間、教養がないとどうなるかというと、幅が狭い近視眼的人間になる。
教養というのは、幅広く全体を見る巨視的能力を身につけることだからね。
教養がない人間の一つ大きなグループとしてあるのは「専門バカ」です。
もう一つは「ただのバカです」(笑)。
この二大カテゴリーがまずあるんですよ。
それ以外に、ただのバカの集団を率いて得意になってる、「バカのボス」がいる。
今の政治家、官僚の相当部分はこれです。
今の日本社会では、この三大バカカテゴリーがいろんな分野で大いばりしているんだ(笑)。
「大学教育かくあるべし」とか盛んに議論してるヤツにかぎって、専門バカが多いんです。
では「教養」とはなにか、については直接、立花本書の「Ⅳ現代の教養-エピステーメーとテクネー」にあたられたい。
相変わらずゼネラリスト立花の面目躍如たる文章である。
ただし躍如しすぎていて、要求が高すぎるからそのつもりで。
鵜呑みにしないこと、くれぐれもご注意を。
『痴愚神礼讃』は一五〇九年、エラスムス四十三歳頃の作である。
日本では室町時代、北条早雲ら戦国大名が割拠していた頃にあたる。
この「痴愚神」とは「痴愚女神」のことである。
つまりバカ女の神様である。
この神様は、「もし私か手を添えてあげなかったら、皆さんは、この地上で、何の喜びにも幸福にもお会いになりませんよ」と豪語するのである。
「先ず御覧なさいな、人間を産み出し作りなして下さった自然の女神が、予め先のことを実によく見通して、わざわざあらゆるもののなかに、痴愚の昧を残して置いて下さったのですよ」(引用はすべて現代仮名づかいに変更)。
頭がガチガチのストア学派は「賢さとは理知に導かれることで、痴呆とは変転する情欲に従ってゆくこと」だというが、「ユピテル大神は、人間たちに、理知よりも、はるかに多くの情欲を授けて下さいました。
(略)大神は、この理知を頭の狭苦しい片隅へ押し込んでしまい、体全体を情欲の手に委ねてしまったのです」その情欲の「二人の暴君」とは「怒り」と「淫欲」のことで、つまり人間はもともとバカに作られているというわけである。
だから「理知」が「人の道の掟を守れ」と声を曖らして叫んでも、バカには到底太刀打ちできないというわけだ。
バカは昔から強かった、ということがここからわかる。
さて、これからが「痴愚女神」の出番である。
人間どものバカを描きだして比類ない。
それに較べるなら、わたしのバカ批判など児戯に等しい。
まず一番最初に槍玉にあげられるのは「女」である。
やっぱり、というべきか。
ユピテルが、男に理知のほかになにかをあたえる必要があるのではないかと相談にきたので女をあたえることにした。


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